居住権運動の源流に
本書は格差社会に陥った日本の住宅問題について総括的に検討し、その中で住宅へのアクセスから弾かれている若者の状態と、その対策を考察した本です。
まずは社会的な貧困化のなかで、若者がどのように住宅にアクセスしているのか、年齢階層、所得階層別に統計資料を元に考察します。多くの単身者が親と同居。そうでない単身者は民間賃貸住宅を利用していますが、国際比較で明らかなように、公的住宅へのアクセスはまったくと言っていいほどありません。これは明確に日本の住宅政策の不備であり、「ネットカフェ難民」などの若者住宅問題の元凶です。この日本に特徴的な若者に対する住宅政策の不在を指摘したことが、本書の大きな意義です。
代替案としてはルームシェアと、民営化に晒されている公団住宅、廃止の危機に晒されている雇用促進住宅の活用が提案されています。ルームシェアは現在、民間賃貸物件を数人で借りて家賃を安くし、セキュリティを向上させ、そして新たなコミュニティを形成するということで大きく注目されています。公営住宅に関しては、ただでさえ貧困な住宅政策の歴史を持つこの国で、その微小な成果までも廃棄してしまうものです。住居を緊急に必要とする若者に提供するのが適当であると考えます。
住居の保障は憲法25条に規定された「最低限度の生活」に欠かせない、国民の権利です。本書の結びにあるように、住宅の歴史には「居住権運動」とでも呼ぶべき多様な市民の努力と闘いがあり、自然に住宅事情がよくなった国はひとつもないことを考えると、今...
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